歴史教科書執筆者は原典を読んだのか

  • 2019.10.19 Saturday
  • 13:34

歴史教科書執筆者は、江戸時代の将軍、徳川綱吉について犬に限定した生類憐みの令を発したと書いているケースが大部分である。これを江戸時代の悪法であるかの如く、述べている。

一方、「徳川がつくった先進国日本」にて磯田道史は、かく述べている。

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五代将軍となった綱吉は、さらに大きな施政方針の転換を図りました。 幕府が武家を統制するために設けた基本法が「武家諸法度」です。慶長二十年(元和元年、一六一五年)に二代将軍秀忠が発したものを嚆矢とし、その条文は八代将軍吉宗に固定化されるまで、将軍代替わりのたびえに改訂されていました。 その第一条は、「文武弓馬の道、専ら相嗜むべき事」とされ、「弓ウマの道」=武道をたしなむことが第一義とされていました。三代将軍家光の時代に、法度の他の条文は大幅に加除・修正されましたが、この第一条だけは手つかずのままでした。 ところが綱吉は、その第一条を「文武忠孝を励し、礼儀を正すべき事」と改めました。これまでの武家の価値観を改め、武道に代わって、忠孝、礼儀による上下の秩序維持が第一とされています。武威をふるう替わりに、儀礼を重視し、上下の秩序を維持する論理への転換が求められたわけです。武士の世の大きな価値観の転換でした。 さらに綱吉は、武士だけでなく、庶民にも新たな価値観を浸透させました。それが「生類憐み令」です。これは非常に誤解されている法令で、悪法の象徴のように扱われています。しかし、決して犬の命だけを尊重しよう、犬だけを大事にしようというおかしな法令ではありません。具体的な条文にはこうあります。

犬ばかりに限らず、惣て生類人びとと慈悲の心を本といたし、憐み候儀肝要事(『御当家家令条』)

つまり、生きとし生けるもののすべてを将軍が反故する、という法令だと解釈するのが正しいのです。しかも、これは一片の法律ではなく、実際には姥捨て山のようなところに捨ててはいけない。病院は行き倒れとなった人の治療を放棄して打ち捨て、殺してしまってはいけないという、二十年ほどかけて出され続けた、社会的な弱者を救済するさまざまな法令群を「生類憐れみ令」と総称しているのです。これについては、塚本学『生類をめぐる政治 元禄のフォークロア』『生きることの近世史 人命環境の歴史から』という名著がありますから、ご興味のある方は、ぜひ読んでいただきたいと思います。 綱吉の根本意図は、人びとに「慈悲」や「仁」の心をもたせることでした、綱吉は雷を極端におそれる臆病さがある反面、学問では歴代将軍中屈指の頭脳と教養を有していました。当時、幕府の正式な学問として扱われていた儒学に深い造詣をもち、将軍自ら講義を行うほどの実力者だったのです。その綱吉だからこと、こうした政治思想や価値の大転換が可能だったのかもしれません。 その結果、「命」を尊重するという価値観が社会に根付いていきました。綱吉は悪い犬公方とされていますが、実は、彼こそが徳川の平和に大きく貢献していました。それは、政治・統治の面でみれば、「殺す支配」から「生かす支配」への転換だったといえるでしょう。生命重視への大転換がまさに綱吉によって図られ、徳川の平和が完成したのです。

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原典を読まない歴史家がいると聞いたことがある。このようなブログにおいても、「原典を読んで書いたのか」という質問をされた方もおられる。 素人相手に、随分な質問態度である。

磯田の見解を参考とすると、「犬ばかりに限らず、惣て生類人びとと慈悲の心を本といたし、憐み候儀肝要事(『御当家家令条』)」とおいう原典を読んでいれば、犬だけに当てはまるものではないことくらいはわかる。

そのうえで、生類憐みの令を、それでも仮に悪法だとするなら、将軍綱吉の学問履歴についても調べておくべきはずである。磯田は、「歴代将軍中屈指の頭脳と教養を有していました。当時、幕府の正式な学問として扱われていた儒学に深い造詣をもち、将軍自ら講義を行うほどの実力者だったのです」としている。

すなわち、多くの歴史教科書執筆者は、原典を読まず、綱吉の学問的能力について確かめもせず、教科書用に作文したことになるのである。

磯田道史の本を読むと、歴史教科書の間違いが随所にある可能性が出てきた。教科書執筆者が修正しないなら、在野の研究者が直すべき点は直すという姿勢を持つべきだと考えるのである。

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