翻訳者は日本語の教科書で日本史を学んだ経験があるのだろうか?
- 2021.09.15 Wednesday
- 06:54
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「鉄道と戦争の世界史」(クリチティアン・ウオルマー著)を読み始めた。
どこから読んでも頭になかなか入って来ない。必要以上に難しい文章、堅苦しい表現、漢文調が目立つ。翻訳ソフトによる機械翻訳を疑うほどである。念のため書評を確認してみた。
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https://www.amazon.co.jp/%E9%89%84%E9%81%93%E3%81%A8%E6%88%A6%E4%BA%89%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%8F%B2-%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%83%BC/dp/4120045366/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&dchild=1&keywords=%E9%89%84%E9%81%93%E3%81%A8%E6%88%A6%E4%BA%89%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%8F%B2&qid=1631600024&sr=8-1
濱哲
5つ星のうち3.0 せっかくの良書なのに、もったいないね
2013年11月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
学術書でもなし、専門書でもなし、一般読者を対象にした啓蒙的というレベルでは、かなり好い水準の著作であり、理論構成も筋が通っているし、またディテールに至るまで確っかり書いている。ただ、著者の関心が第一次世界大戦期に集中しているため、プレ第一次大戦ともいえる日露戦争や、第二次大戦&以後への言及が、いささか手薄になったのは否めないが、もっとも、そこまで求めるのは、求めるほうが酷だといえるかも知れない。
しかし、こちらの翻訳者さん、技術史上の事柄や軍事史的問題について、必要とされるていどの知識がないようで、日本で慣用化されている訳語と異なる用語使い、たどたどしい直訳調やら、ちょこちょこ日本語の文章になっていないセンテンスまで並ぶ。翻訳者自身が企画を持込んだものか、編集部が委嘱したのか知らないが、明らかにミスキャストだったと言えよう。
たとえば、序文のところ、英国陸軍の軍隊編制や階級制度を解説するところで、「陸軍分隊 一等兵が率いる 一五兵」、「歩兵小隊 准大尉が率いる 六〇兵」……、とやらかしている。
英語の原文に当たっていないので正確なところは判らないが、ことさら「陸軍」と「歩兵」を使い分けた理由がわからないし、英国陸軍でも、「一等兵(旧日本軍式の呼称では「兵長」にあたる?)」ごときを兵士15名の分隊指揮官に任ずるなんてことはあり得る話ではなく、おそらく英軍の「一等下士官(旧日本陸軍なら「曹長」か?)」を誤訳したんだろう。「ソルジャー」と「サージャント」を取り違えたのだろうか。また「准大尉」とは、「リュテナント」の訳語のつもりなんではないか。たしかに「代理」や「准」でも間違いではないが、「ロード・リュテナント」といえば「総督」、「リュテナント・ジェネラル」なら「陸軍中将」と、など、あるていど固まった日本語訳というのが存在するわけで、ここは旧日本軍式の呼称なら「中尉」か「少尉」、たぶん、小隊指揮官なので「少尉」ではないか。また、各級部隊の将兵定数を表すところで、まことに不可解な「兵」なる数詞を用いているが、「兵」とは一般的に「兵士」を言うわけであり、この場合は「将校・下士官」を含む部隊構成員数であって、普通は人間に対する数詞で「名」「人」とすべきところだろう。以下、この手、ケッタイな日本語訳が頻出するのに閉口させられるうえ、距離「マイル」表記には、すべてキロメートル表記を〔 〕で添付しているが、まぁ、「マイル」数を1.6倍すれば、およそのキロ数に換算できるのは日本人でも常識なんで、出だし一つや二つくらいなら親切のうちでも、これでは、ひたすら目障りでしかない。
あとがきのところには、英語原題の「エンジンズ・オブ・ウォー」の、この「エンジン」とは何のことだと、ウエブサイトで直接、著者に尋ねたというくだりが出て来る。
この「エンジン」とは、要は「スティーム・エンジニアリング」のことなんだが、動力源の主流を、内燃機関や電気モーターが占めるようになる前の時代には、「スティーム・エンジン(蒸気機関)」が、鉄道や船舶は無論のこと、乗合自動車(バス)や農耕用トラクター、鉱山の鉱石搬出用リフト、ケーブルカー、排水ポンプその他、さまざまな工場や現場で盛大に動力源として使われていたため、そうした時代の英国では、「エンジン」といえば、すなわち「蒸気機関」にほかならず、このような言葉使いが慣用化されていたんだけれど、日本のケースにたとえるとすると、明治時代に「車」といえば、あの人間が挽く乗り物の「人力車」のこと、と、そういうたぐいの話かな。しかし、この程度のことなら、英国版の百科事典か英語用例辞典などを紐解けば出てくるレベルのことではないか。このくらい貧しい技術史知識しか持っていない翻訳者による翻訳文(軍事用語を含めて、こちらの翻訳者さんが、何ゆえ英和辞典さえ引こうとしないのか、まるで理解不能)というわけ。
本書のテーマに関心ある読者諸賢には、お奨めしたいと思う書籍だが、何せ、このヘンテコリンな翻訳には、1冊を読み通すのに、ひたすら我慢を強いられること、あらかじめお含みおき願いたいと思う。
ssuzuoki
5つ星のうち1.0 テーマは良いのに、悪訳でぶち壊しになった本です。
2015年2月11日に日本でレビュー済み
物資も兵士も膨大に消耗する近代戦はロジスティックなくては成り立たないのですが、近代戦に鉄道が果たした役割をテーマに据えて書かれた本です。
面白いです。普仏戦争におけるプロイセン参謀総長・モルトケの鉄道を駆使した動員体制が勝敗の帰趨を決した、とされているこれまでの戦史をあっさり否定します。「モルトケが優れていたのはプロイセン国内の動員体制まで。フランス国内での戦いではプロイセンの兵站は機能せず、フランス軍部・鉄道関係の無能と、広範囲に展開した自軍の『現地徴発』に助けられただけ」と喝破するあたりは成る程、と唸らせます。
ただ、本書の訳はまことに酷いものです。訳者は鉄道も軍事も、そして日本語についても決定的に知識がありません。
軍隊の動員数に「一二〇〇〇兵」なんて序数詞を付ける無知には呆れるし、爆弾は「発射」するものでなく、「投下」するものです。これらはまだ許せるとしても、「…軍部が、無載貨車の連結された列車の返戻を低順位に考量していたからであった。」なんて、高校生でも書かないような文が至る所に出てきます。「軍部が、空荷の貨物列車の回送を軽視していたからであった。」と素直に訳せないのかよ!疑問に思う箇所に付箋を付けて読み始めましたが、100箇所超えたところで止めました。クリミア戦争の死者200万人、第一次世界大戦のマルヌ会戦後米国軍が1300万人の応援部隊を送った…など、数字が全く信頼できません。
中央公論社は訳す資格のない訳者を選抜し、編集者はゲラに一度も目を通さなかったようです。原著者にも、読者にもまことに失礼な一冊に仕上りました。老舗の看板が泣いています。
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参考までに、日本人なら中学、高校の歴史教科書にて学び、内容的に馴染みあると思われる箇所の頁を転載させていただく。
日本人として日本語で日本の歴史を学んでいたならば、こういう表現となるのであろうか。
本によると、翻訳者は他分野の翻訳実績があるようだ。従って、翻訳者は軍事用語には疎いかもしれない。
が、日本人なら慣れ親しみ記憶の中にある日露戦争時代の歴史について過度に難しい表現にするはずはないと考えるため、翻訳者は、翻訳ソフトによる機械翻訳でなければ、日本語で日本史を学んでいない、すなわち日本語以外の言語を母国語とする方に思えて仕方がないのである。